インストラクショナルデザイン
とは
最適な学習効果のための教育設計

インストラクショナルデザイン
インストラクショナルデザイン(ID:Instructional Design)とは、日本語に直訳すると「教育設計」になります。
それぞれの環境において、最適な教育効果をあげる方法の設計を行うのが目的です。
- インストラクショナルデザインとは
- インストラクショナルデザイン(ID:Instructional Design)とは、日本語に直訳すると「教育設計」になります。その名のとおり、それぞれの環境において、最適な教育効果をあげる方法の設計を行うのが目的です。
- 効果的なeラーニングを実施したい。
- 最適な教育効果を見極めたい。
インストラクショナルデザインの
広がり
現在インストラクショナルデザインを採用している分野は多岐に渡ります。学校・企業など、「教育」が行われている現場での需要は年々高まっています。
なぜならインストラクショナルデザインは、教育方法に特化したものだけではなく、経営・戦略など「教育」を取り巻く環境を分析し、何がもっとも必要とされ、そして最適な手段なのかを見極めるために、とても効果的だと言われているからです。
インストラクショナルデザインは、「ニーズの評価と分析」「デザイン」「開発」「実装」「導入後の評価」の、5つの手順をサイクルとして設計します。
インストラクショナルデザイン
チェックシート
おもにチュートリアル教材を評価するための一般的な項目を、一覧にしてまとめました。
ニーズの評価と分析
ニーズの評価は、実情と理想の差異を認識し、ゴール(最終効果)を決定するために欠かせない手順です。ニーズの種類は大まかに以下の5つに分類できます。
標準的なニーズ | スタンダードとされるものとの違いから生まれるニーズ。 |
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感覚的なニーズ | 人々は何を求めているか。感覚的観測からなるニーズ。 |
必需的なニーズ | 需要と供給。マーケットや流行依存のニーズ。 |
比較的なニーズ | ほかとの違いから生まれる需要。競争・競合等から生まれるニーズ。 |
将来的なニーズ | プロジェクトのゴール。流行に左右されず、長期な計画から生まれるニーズ。 |
評価や分析を行うにあたって、現状を以下の9項目のタイプ別に分けて行うことが望ましいです。
受講者の分析 | 教材を受講する対象者(ターゲット)を明確にする。 |
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テクノロジーの分析 | 既存のテクノロジーやキャパシティを再認識する。 |
課題の分析 | 受講修了後の効果が、現実の仕事に役立つかどうか。 |
重要項目の分析 | どのようなスキル、知識がターゲットとなるか明確にする。 |
環境の分析 | 組織的もしくは環境的考慮を分析。 |
目的の分析 | ターゲットとする目標を挙げて明白にする。 |
メディアの分析 | 適切な学習メディアを選別する。 |
既存データの分析 | 現存する教材、マニュアル、参考書などを明確にする。 |
コスト、利益の分析 | コストや利益、投資に対する金額的な見返りを計算する。 |
デザイン
デザインは、教材の仕様を固める作業です。
- スケジュール
- 制作チーム
- 教材の構成
- インターフェースデザイン
- 教材に統一感を持たせるためのルール
- 学習結果の評価法
などを決める作業が含まれます。
これらを固め、関係者のコンセンサスを取っておくことで、作り直しというコストの無駄遣いをなくすことができます。学習内容の専門家による、教材の妥当性の診断も行った上で決定します。
開発
開発で重要なことは、開発メンバーの行う作業の責任範囲を各自が認識していることです。
たとえばミーティングなどで、スケジュール・作業内容・進捗状況を伝え、無駄のない効率的な開発を進めていきます。
複数のメンバーで作業を分担するには、たとえば
- 共通のテンプレートをひとつ用意し、あとは素材を組み込んでいく
- ひとつのコンテンツを完成させ、そのコピーを元にしてほかのコンテンツを作っていく(共通の部品はライブラリーなどにしておく)
の、どちらかの手法をとります。
つまり、開発は
- プロトタイプ、テンプレート、ライブラリーなどの開発
- テンプレートを利用した各コンテンツの開発
- 実装して実験
という流れになります。
でき上がった教材のチェック作業は、開発のさまざまな段階で行います。チェック作業にかかる時間は、あらかじめスケジュールに含めておきます。
実装
教材や受講者リストを登録し、管理ツールもシステムに組み込み、受講者が実際に学習を行う過程です。デザインされ、開発された教材を、ここで学習します。その学習結果、あるいは学習過程を次の段階で評価します。
開発された教材がシステム上で問題なく動作すれば、インストラクショナルデザイン上では特に問題になる点はありません。
しかし実際の運用上は、いくつか注意する点があります。
運用側の業務は、おもに学習者の進捗状況の把握とそのサポートです。環境的にも、実際の学習としても、問題なくスムースに学習が進んでいるか、その進捗状況に気をつける必要があります。
もちろん、前もってハードウェア要素の問題点はクリアしてあるわけですが、実際の運用では予想のつかないことも起こります。たとえば初めての学習者は、「教材にアクセスできない」「動きが止まってしまった」など、さまざまな障害や疑問にぶつかります。教室ならすぐに講師に質問して解決ができますが、eラーニングではそこで学習が行き詰まってしまうかもしれません。
Web管理者や運用管理者は、システムエンジニアと連絡を取りながらハードや回線の問題を解決するとともに、「教材が学習者に合っているか」「興味を持ちつづけて最後まで脱落せずに修了できるか」など、受講者全員に対して気を配る必要があります。
そのためには、
- ハードウェアやソフトウェアの使い方、学習方法についてのサポート
- 学習内容についてのサポート
- モチベーションについてのサポート
などを、メールや電話によって行う必要があります。
さらに、FAQや掲示板、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などを利用して、疑問の解決や意見交換をすることも学習成果に結びつきます。
これらのサポートは、デザインの段階で全体計画の中に組み込んでおくと、最終的な効果にもつながります。計画になかったとしても、状況をみて補強をする、あるいは次回の計画(デザイン)に最初から盛り込むようにして、効果のあるプロジェクトにしていきます。
導入後の評価
講習の修了後には、評価を行います。それによって、
- 成果があがったのか
- 成果があがらなかったなら、その原因は何か
- 次回に改善する点はないか
ということを検討し、次回の分析・デザイン・開発につなげていくようにします。
目標を数値化した効果の測定
評価では、目標を数値化してクリアすべき目標点を設定し、目標点に到達したかどうかで成果を測定します。
たとえば、
- 目標の知識やスキルを身に付けたか
- 所定の時間内に全員が学習を終えたか
前回と違う方法を採用したのなら、
- 前回の講習より成果が上がったか
- 前回の講習よりコスト削減の効果があったのか
データとして、
- 全体の費用(交通費、人権費、場所代などすべての経費)
- 受講者の満足度(アンケート)
- 学習後テストの点数
- トータルの学習時間
- 遂行度(最後までやり終えたか)
前回と比較するには、
- 前回の費用
- 前回の得点
- 前回の学習時間
- 前回の完遂度
などを集めます。
この結果をもとに、「個人や組織の目標が達せられたのか」「投資として有効だったのか」を判断します。組織として次にどうするかを考え、次のサイクルに進みます。
学習教材の評価
評価には、学習後の効果の測定とは別に、学習教材の評価もあります。学習教材の評価は、効率を考えると学習後ではなくデザイン時と開発時に行い、修正が必要なら学習開始前に修正します。
教材自体の評価の観点は、以下のようなものがあげられます。
デザイン時では、
- 学習内容が学習目標に合っているか
- 内容の組み立てに問題はないか
- 表示・説明の方法に問題はないか
- クイズは目標の知識やスキルの習得を試すものになっているか(validity/妥当性)
開発時では、
- シナリオどおりにデザインされているか
- 文字・音声のデータ等は、シナリオどおりか
- タイミング等に問題はないか
- 動きは指定どおりか
これらの評価には、開発当事者以外の者があたるのが望ましいでしょう。
評価観点の注意点
評価観点としてひとつ注意が必要なのは、その学習が組織として必要かという点です。学習が順調に進み、その結果として各人のレベルアップが見られることはいいことですが、教材制作時に目的としていたものと一致しているのか、一度は点検する必要があります。
たとえて言えば、「長距離ランナーに短距離用の筋力をつけていないか」「セールスエンジニアが必要なのに、プログラマを育成していないか」といった観点でチェックしましょう。